【認知症サポートプロジェクト】お客様の「働きたい」を形にするツクイ岡山原尾島の取り組み

2025-12-11

「認知症サポートプロジェクト~認知症とともに生きる社会を実現する~」

ツクイのこの取り組みは、「認知症ケアに強い会社を目指す」という目的のもと2024年に発足し、「認知症ケアの質の向上」「地域社会との連携強化」「安心できる環境づくり」の3つを柱にしています。具体的には、自治体の施策への参画や、地域に向けた認知症関連イベントの開催、認知症に関する研修など幅広い活動をしています。その一歩を踏み出そうと動き出した一人が、ツクイ岡山原尾島(岡山県)のマネジャーである白方さんです。

岡山エリアで進む認知症ケアの実践

白方さんが勤務する岡山エリアでは、高齢者が集うボッチャ大会への参加、認知症カフェの開催など、多様な認知症支援活動を行っています。エリア全体で地域と協働した取り組みを広げながら、誰もが参加しやすい交流の場づくりを進めています。

認知症プロジェクト1
ボッチャ大会
認知症プロジェクト2
認知症カフェ
認知症プロジェクト3
「ハタラク」の打ち合わせをする白方さんとスタッフ

白方さんは、認知症の方々と日々向き合う中で「認知症の方が地域の一員として自然に過ごせる環境をつくりたい」という思いを抱くようになりました。その思いを具体的なかたちにする取り組みの一つが、岡山市の総合特区高齢者活躍推進事業「ハタラク」への参画です。「ハタラク」は、認知症のある方を含む高齢者が、無理のない範囲で地域での役割を持ち、社会とつながり続けることを目的としています。白方さんは、この事業を通じて「できることを生かしながら地域で活躍できる場」を広げたいと考えました。

「ハタラク」プロジェクトの現場から

白方さんが「ハタラク」プロジェクトの中で実際に支援している取り組みをご紹介します。
ツクイ岡山原尾島をご利用中のA様は、要支援1で認知症の診断があるお客様です。平日は就労継続支援B型の作業所で働き、土曜日は認知症予防と他者交流を目的にツクイのデイサービスに通われています。そんなA様が取り組まれているのは、おかやまコープ「コープ東川原」の従業員用駐車場での草取り作業です。
月に2回、11時から12時までの1時間行っています。当初は月1回からのスタートでしたが、作業に真剣に取り組み、丁寧に草を抜く姿勢が評価され、現在では月に2回、草取りを任されるようになりました。
作業後には、「コープ東川原」からA様に謝礼が手渡されます。一生懸命に作業を終え、謝礼を受け取るA様の表情には、大きな達成感と喜びがあふれているだけではなく、「地域の役に立ちたい」という強い思いも感じます。「自分の力で得た報酬」という実感が、次への意欲につながっているようです。

認知症プロジェクト4
丁寧に草を取るA様
認知症プロジェクト5
謝礼を受け取り笑みがこぼれるA様

 

認知症プロジェクト6
ツクイ岡山原尾島 マネジャーの白方さん

A様の一歩から広がる、白方さんの挑戦

「ハタラク」の活動の背景には、白方さんが抱く「認知症のある方も地域で自分らしく過ごせる社会にしたい」という強い思いがあります。白方さんに、プロジェクトに込めた思いや現場での葛藤、理想と現実のギャップについて聞きました。

ーお客様のやる気を引き出すコツを教えてください。
「楽しそう」「ワクワクする」と自分自身が本気で感じられることは、スタッフやお客様にも自信をもってお勧めできます。すると自然と「楽しそうだね」という気持ちが生まれるのだと思っています。大切にしているのは、「やってもらう」のではなく、「やってみたい」が生まれる環境をつくることです。

ー「ハタラク」を通じて、感じた課題はありますか。
活動先となる企業とのマッチングが思うように進まず、受け入れ先を十分に確保できていない点です。企業側にもさまざまな懸念があるようで、よく聞かれるのは「謝礼の支払い方法をどのように整理するか」という点です。また、本取り組みの意義や効果をより広く知っていただくために、今後は地域貢献、企業イメージ向上など、受け入れる企業側にとってのメリットについて、行政と連携しながら発信していくことが重要だと感じています。

ーそのほかにも理想と現実のギャップを感じた場面はありましたか。
「ハタラク」は介護報酬の加算がなく、お客様1名に対してスタッフ1名の付き添いが必要です。現場としては、かなり厳しい状況の中で取り組んでいるのが現実です。
福祉とビジネスの間には、まだ大きな壁があると感じています。だからこそ、この厳しい現状を隠さず、内部にも外部にもそのまま発信していくことが大切だと思っています。そのことがいつかアイデアや力につながると信じています。

ー取り組みを通じて、お客様の生活に変化はありましたか。
まだ事例は多くないですが、お客様ご自身が「働く」ということを前向きに捉えていらっしゃると感じます。コープ東川原の店員の方から「Aさん今日もご苦労様でした」と声をかけられたときの表情が、私にはとても輝いてうれしそうに見えました。認知症があっても、社会とつながることが大切だと言われていますが、まさにその意味を実感した瞬間でした。

ー「ハタラク」を通じて、実現したいことはありますか。
私は「お客様に対価が支払われること」にこだわっています。その理由は、お客様の自己肯定感や自信につながると信じているからです。多くのお客様はこれまで仕事をし、それが生活の一部でした。だからこそ、デイサービスでの目標も「自宅で転倒しないように過ごす」といった内容だけでなく、「近所のスーパーで週1回レジ打ちをして対価をいただく」といった、社会とつながる目標が当たり前に設定できる場所にしていきたいです。

ー今後挑戦してみたいことはありますか。
今後は、お客様が「教える側」として活躍できる場を考えています。例えば、書道や茶道など、これまでの人生で培ってこられた得意分野を生かして、レクリエーションの講師を担っていただく取り組みです。
また、有償ボランティアでは、個人での活動に限らず、自立度の高いお客様5名ほどを1つのグループとし、スタッフ1名がサポートする形で、集団として対価を受け取れるような仕組みづくりにも挑戦したいです。
そのほかにも株式会社SOYOKAZEとの連携により、仕事づくりに向けた動きも進んでいます。本取り組みはその先駆けとなり得る、大きな一歩だと考えています。

 

「できる力」をこれからの希望へ

介護サービスは、「できなくなったから利用するもの」ではなく、「これからの暮らしを支え、可能性を広げるための前向きな選択肢」であってほしい。白方さんの言葉や行動からは、そんな強い思いが伝わってきました。
「今はもうできないかもしれない」――そうした不安を「まだ挑戦できる」という希望に変えていくことこそが、本取り組みの目指す姿です。その意義は、A様のいきいきとした表情が物語っています。


<取材>総務部広報課 吉﨑